第1回 塩本泰三インタビュー
長年、市職員として行政や施設運営に携わってきた経験を生かし、2012年より現職。「福祉機器導入検討委員会」のメンバーとなり、移乗機器等導入(ノーリフト)研修を「鈴が峰」からスタートさせることに同意。塩本氏に介護職の経験はないが、自身も研修生となって職員とともに学び、ノーリフトを推進する旗振り役となった。
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ノーリフト研修を始めるにあたり、さまざまな条件から「鈴が峰」に白羽の矢が立ちました。三篠会内部だけでなく外部にも、今後の介護のあり方を発信していく起爆施設となるため、絶対に成功させるという強い気持ちで挑みました。
介護のネガティブなイメージを払拭する手段として、ノーリフトは欠かせないものですが、最初は戸惑いを見せる職員や、抵抗を感じる職員も少なくなかったようです。
とはいえ、これは自由参加ではなく、ご利用者の生活に関わる全職員が対象の業務研修として位置付けていたので、時間外手当ても措置して実施しました。
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最初は、なかなか現場に浸透しないのではいかと危惧しましたが、講師の香川先生や、補佐をしてくださった福祉用具販売店の笠原さんの人柄や指導が、職員の気持ちに訴えかけたのではないでしょうか。まだまだ現場での実践が100%できているとはいえませんが、良い取り組みであるという認識は根付いてきています。
介護職員や理学療法士、作業療法士らによる現場実践推進委員の中には、自発的に他の施設の見学に行く者もいますし、現場の盛り上がりを感じています。ご利用者の生活の向上につながるよう、ノーリフトを定着させることが大切です。
第2回 笠原大輔さんインタビュー
「福祉用具の活用が、介護業界の人手不足解消の一助となる」。そんな思いでプロジェクトに参加。ノーリフト研修の講師である香川寛氏を紹介したり、適切な用具や機器の使用をアドバイスしたり、ノーリフトの現場を陰で支えている。福祉用具専門相談員、精神保健福祉士、社会福祉士などの資格を保有するスペシャリストでもある。
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介護業界の慢性的な人手不足の原因の一つが職員さんの腰痛ですが、福祉用具を使うことで、腰への負担は劇的に軽減できますし、ご利用者の方の身体症状の改善にもつながります。福祉用具専門相談員の立場で言うと、必要な人に、必要な用具を、必要なタイミングで使用することで、介護する側にもされる側にもいい効果があるはずなんです。
ノーリフトの研修全体から見ると、用具のことはほんの一部ではありますが、私も講師の香川先生の補佐として、全ての研修に参加しました。知識、技術、そして用具が整えば、必ず結果につながっていきます。
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これからの介護は、どの施設でもノーリフトの手法を取り入れていくことになると思いますが、三篠会のような法人をあげての取り組みは、介護業界全体から見ても先駆的なものだと思います。現場スタッフの意見を吸い取り、上層部の方の意見と擦り合わせながら進めてきたからこそ、短期間でここまで浸透したのではないでしょうか。
他の法人からノーリフトの現場を見学をしたいとの要望があるともと聞いています。私も販売店として、ご利用者の方に合った、しっかり結果の出せる用具をご提供できているので、このプロジェクトの意義を実感しています。
第3回 香川寛先生インタビュー
作業療法士としての経験から、高齢者に苦痛がなく、人として当たり前の生活を送ることを重視した介護を実践。介護される人にもする人にも負担の少ない介護技術を広めるため、NPO法人を設立し、現場のコンサルティングや研修などを展開している。三篠会ではノーリフトを中心に、座学実技研修、現場実践研修、フォローアップ研修を担う。
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介護度が重くなればなるほど、苦痛の中で生活している高齢者が多いという現実を、何とかしたいという思いで活動しています。そのために必要な介護技術の一つがノーリフトです。世間には色々な研修、色々な技術がありますが、ご利用者に合っているなら、どれも正解なのだと思います。
まず大切なのは、介護のやり方によっては、苦痛や恐怖を与え、褥瘡や拘縮などの原因を作っていることに気づくことです。楽な姿勢で寝てもらう、座ってもらうといった生活の部分や、ベッドや車椅子などの用具を見直すことで、生きていく機能も改善できるのです。
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私が最初に、三篠会での研修の話をいただいて感じたのは、三篠会が変われば、広島が変わるかもしれないということです。経営のトップから現場を変えようとしている法人は、私は他に知りません。トップが動くからこそ、すごいスピードで現場が変化しているし、結果も出ているのだと思います。
この取り組みを一過性のものではなく、スタンダードにするためには、現場のあらゆるシステムを変え、まだまだスキルアップも必要です。現場の皆さんにはプライドを持って取り組んでいただきたいですし、プライドに価する取り組みなのではないでしょうか。
第4回 境田善之インタビュー
「鈴が峰」の重症児・者福祉医療施設に勤務する傍ら、同じ敷地内の特別養護老人ホームでのリハビリも担当。ご利用者の身体状況を判断し、生活面や福祉用具の提案・情報提供などを行っている。ノーリフトの現場実践推進委員として定期的に開催している職員同士の勉強会では、作業療法士という専門職の立場から指導的役割も果たす。
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以前からノーリフトのような技術は知っていましたし、福祉用具も使っていましたが、十分に活用できていませんでした。今回、「鈴が峰」の老人ホームで一斉に取り組みを始めた時も、現場ではなかなか浸透しないのではないかということを懸念していました。
実際、職員の間には温度差があるように感じます。ただ介護職もリハビリ職も一緒になって取り組んだことで、短期間でみんなの意識が変化したのではないでしょうか。それぞれが介護のプロ、リハビリのプロとして、質の高い生活を提供するんだというプロ意識を持つことが大切です。
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現場実践推進委員の立場では、いかにノーリフトを浸透、定着させるかが課題です。そのためには全体的な業務改善をしつつ、定期的に技術の見直しをしていく必要があります。
そんなことを考えると、なかなか終わりは見えてきそうにないですね。これまで短期間で一気に推し進めてきましたが、今後はもう少し長期的な視点で考えたほうが、よりよい成果につながるのではないかと感じています。
私自身は、作業療法士としてたくさんの引き出しを持ち、現場で役立てられるよう、しっかり情報収集と発信ができるように成長していきたいと思います。
第5回 清家伸二インタビュー
2011年より介護士として「鈴が峰」に勤務。入職時に教えられたことを実践していたため、従来の手法に対して特に疑問を感じることもなかったという。ノーリフト研修での積極的に学ぶ姿勢や、周囲を取りまとめる能力を買われ、現場実践推進委員の一人に抜擢。技術の確認やフォローを目的に、定期的に職員同士の勉強会をしている。
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「ノーリフト」と聞いて、最初は海の物とも山の物ともつかないという印象を抱いていました。今までやってきたこととは全く違う技術なので、他の職員も同じような気持ちだったのではないでしょうか。ところが、やってみるとすぐに、その良さを実感できるようになりました。
例えば、おむつの当て方も、ちょっと変えるだけで股関節が動きやすくなるんです。そういう小さな発見や気づきが研修のたびにたくさんありました。とはいえ現場で実践してみると、練習のようにはうまくいかないことが多く、何が違うんだろうと、悩むことも多かったですね。
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ノーリフトの手法は、起き上がりの動作で言うなら従来の2~3割の力でできます。以前は抱え上げて移乗していたご利用者の方を、機械で吊るして移乗すると、ふわりと浮かぶのが気持ちいいのか笑顔になられます。寝るときや座るときにクッションを活用するだけで、足が伸びるようになり、拘縮が弱まった方もいます。
そういう感動的な変化を目の当たりにすると、もう前の手法には戻れないですね。私自身も含めて、職員がノーリフトを徹底することや、技術を磨くことなど、課題も多いのですが、今後さらに効果が表れてくることに期待しています。
第6回 黒木美樹インタビュー
2013年より「鈴が峰」介護士。日々の現場で、ご利用者が苦痛の表情を浮かべる移乗の仕方や、褥瘡を作ってしまったときの対応などに、「本当にこれで良いのだろうか」と疑問を感じるようになっていたところに、ノーリフトの研修が始まった。現場実践推進委員の一人として、職員が実践しやすい環境づくりや、新人の教育などを担っている。
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私にとってノーリフトの研修は、現場で感じていた様々な疑問を解消してくれるものでした。ケア全般に関わってくることなので、一つひとつの技術が奥深いですし、ケアの仕方もご利用者によって違うので、とても興味深いですね。
実際に取り入れると、ご利用者さんに良い変化が見られるようになりましたし、私自身も前のように力を使っていないことも実感しています。ノーリフトはこれからも続けていくべき手法です。ご利用者一人ひとりに合った手法を見極めて、実践できるようになるために、まずは自分の知識や技術を磨いていきたいと思っています。
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先日、ノーリフトに成功している他の法人の施設を見学させていただきました。やはり根気よく継続することと、職員に浸透させる努力が必要だと教えていただきました。浸透させるためには、職員一人ひとりの気持ちを動かさなければならないので、難しいし時間がかかりますね。
正直なところ、私自身もできていないことが多いので、他の職員に伝えたり、新人を教育したりといった現場実践推進委員としての責任に、背中を押されている部分が大きいです。「鈴が峰は職員も環境も質が高く、褥瘡がゼロ」そう言われる施設を目指していきたいですね。